[ジャズ・コレクション1000 続編に寄せて]

久しく流通が途絶えていた作品や、国内盤CD化が切望されていたコレクターズ・アイテムの中から、“いまこそ聴か
れるべきもの”を厳選したジャズ・コレクション1000シリーズ。今年2月と3月にそれぞれ50タイトルが発売され、ジャ
ズ・チャートを独占するなど、大好評を博したプロジェクトの続編が、ここにスタートした。
 今回もコロンビア、RCA、エピック等が所有する膨大なカタログをフルに使ったセレクション。作品は第1期以上に変化に富み、その多彩な陣容は「ジャズの小宇宙」といっても過言ではない。特徴を箇条書きにすると、こうなる。

1)あらゆるタイプのジャズ・アルバムを収録。ジャズの書籍によく記されているニューオーリンズ、スウィング、ビ・バップ、ウエスト・コースト・ジャズ、ハード・バップ、モード・ジャズ、フュージョンといったフォーマットの違いを、実際の音で知ることができる。


2)アメリカに限らず、ヨーロッパ、日本、ブラジル、カナダなどのミュージシャンの作品もたっぷり含まれている。“国際語としてのジャズ”を再認識する絶好の機会。


3)インストゥルメンタル作品だけでなく、ヴォーカル・アルバムもふんだんに選出。


4)世界初CD化、国内初CD化も多数。オリジナル・アルバム未収録曲を可能な限り追加し、音質面においても一層の向上を図った。


 すべてのラインナップを眺めているうちに、ぼくはさらに“大御所たちの若き日の姿”を聴ける作品が多いことにも
気づいた。ジャズと呼ばれる音楽が誕生して100年以上が経ち、当然ながらその青春期を彩ったミュージシャンたちは次々と寿命を終えている。だが今なお不屈のスピリットで現役活動を継続し、世界中のジャズ・ピープルから敬愛を集めている奏者も存在する。ソニー・ロリンズ(84歳)、リー・コニッツ(87歳)、フィル・ウッズ(83歳)、チャールス・ロイド(77歳)などがそうだ。当シリーズには、彼らが一介の気鋭としてジャズ界に新風を吹き込んでいた頃の作品がフィーチャーされている。ロリンズの『ホワッツ・ニュー』は彼のルーツのひとつである“カリプソ”にフォーカスを当てた作品、コニッツは『リー・コニッツ・プレイズ』でスタンダード・ナンバーの枠組み(いわゆるコード進行)を借りながら“アドリブの魔術師”そのもののパフォーマンスを次々と披露する。ウッズの『ウォーム・ウッズ』はジャケット写真もサックスの音色もとにかく若々しい。ロイドの初リーダー作『ディスカヴァリー!』では、生涯の代表曲「フォレスト・フラワー」がもうここで演奏されていることに注目したい。ヒットしたのは同名のアトランティック盤に入っている再演ライヴ・ヴァージョンのほうだが、より簡潔でメロディアスなスタジオ・ヴァージョンもぜひ愛聴していただけると幸いだ。枯淡の境地に達して久しい彼らも、往年は荒削りなまでに激しく、颯爽としていた。それをいまさらのように知らしめてくれるのも、録音物のありがたみである
 ロイドの忘れられない功績の一つに、“キース・ジャレットを自身のバンドに加え、売り出した”ことがある。キースが26歳のときに吹き込んだ『エクスペクテイションズ』も、当シリーズで久しぶりに再発される。先ごろ亡くなったチャーリー・ヘイデンのベースや、ジョシュア・レッドマンの父親であるデューイ・レッドマンのサックスを加えた編成で、フォーク、ブラジル音楽、フリー・ジャズ、ロック等を横断するような音作りが痛快だ。近年の“大芸術家”然としたプレイとは別の親しみやすさ、楽しさに改めてキースの魅力を認識するファンも多いのではないだろうか。いっぽう、『イン・コンサート』はキースと並び称される現代ジャズ・ピアノ界の重鎮、ハービー・ハンコックとチック・コリアが行なったアコースティック・ピアノ・デュオ・ツアーの貴重な記録だ。録音当時ハービー37歳、チック36歳。1970年代後半のジャズ界を大いに賑わせた“夢のデュエット”を、当時にタイムスリップしたような気持ちでお楽しみいただきたい。ピアノといえばまた、別格的な大物であるオスカー・ピーターソンの初期演奏集『ディス・イズ・オスカー・ピーターソン』も当シリーズに含まれている。1970年代初頭に『若き日のオスカー・ピーターソン』というタイトルで2枚組LPが日本企画として発売されたときは28曲入りだったが、今回のCD化では倍近くのテイクを収録。20歳そこそこの天才ピアニストが、母国カナダから世界に飛び立っていく過程を、これまでにないほど詳しく辿れるようになった。
 その他、トミー・フラナガンがロン・カーター~ロイ・ヘインズと組んだ『白熱』等の世界初CDリリース、「ローハイド」他のアメリカン・ポップスで一世を風靡したフランキー・レインがジャズ・シンガーとして抜群の実力を発揮する『ジャズ・スペクタキュラー』等の日本初CD リリース、“トランペット・ヴォイス”ことジョー・スタッフォードの金字塔『JO+JAZZ』が約30年ぶりに復刻されることも大きな話題となるに違いない。ジャズ・コレクション1000シリーズを構成しているアルバムの録音時期は確かに古い。が、ときの審判に耐えてきた“アート”の価値は永遠。聴きこめば聴きこむほど、我々ジャズ・ファンは作品の持つ不滅の輝きに圧倒されるはずだ。

2014年8月 原田和典

 




[ジャズ・コレクション1000に寄せて]


 久しく流通が途絶えていた作品や、国内盤CD化が切望されていたコレクターズ・アイテムが装いも新たに登場する。それが“ジャズ・コレクション1000シリーズ”だ。CBS/コロンビア、RCA、エピック等が誇る膨大なカタログから選ばれた全100タイトルはいずれも、ジャズの楽しさ、面白さ、気持ちよさを伝えてくれるものばかりである。
 昨年リリースされた“Legacy Recordings ジャズ名盤100選”が表通りにある選りすぐりの名レストランだとすれば、今回は路地をちょっと入ったところにある大衆食堂といったところだろうか。時代を揺るがすような金字塔や、ジャズ史上のバイブルとして崇め奉られている作品は少ないかもしれない。だがここには長年にわたって、心からジャズを愛してやまないリスナーに聴き継がれ、語り継がれてきた演奏だけがある。録音から何十年もの間、流れ続ける時の審判に耐え、真のジャズ好きから変わらぬ支持を集めてきた作品ばかりで構成されているのだ。それが1000円で手に入るのだから、新しくジャズに興味を持ち始めた方にはとにかく片っ端から聴いてほしいし、ベテランのジャズ・ファンにはこの機会にぜひコレクションの補充に励んでもらえれば、こんなに嬉しいことはない。
 CBS/コロンビアを代表するジャズ・アーティストのひとりが、トランペット奏者マイルス・デイビスであることに疑いの余地はない。四半世紀を越える専属期間中、彼は何度、ジャズの流れを変えただろうか? だが今回選ばれたのは、“カリスマ音楽家”という面よりも、彼がいかに魅力的なトランペット奏者であるかを示す作品群だ。『パリ・フェスティヴァル・インターナショナル』は、弱冠22歳時のライヴ。同時期、他のレーベルに『クールの誕生』というスタジオ録音を残しているマイルスだが、実演の場では限りなくホットだったことを示す好例といっていいだろう。ハイトーンも駆使してバリバリとトランペットを吹くマイルス、これも彼の持ち味のひとつなのだ。『ブラックホークのマイルス・デイビス』は1961年、サンフランシスコのジャズ・クラブで録音された作品。少数の観客の前で、思いっきりくつろいだパフォーマンスを展開している。ここまでリラックスしきったプレイは同時期のスタジオ録音からはうかがえないものだ。同じ61年に、ニューヨークの名門コンサート・ホールで演奏したときの記録は『アット・カーネギー・ホール』、『モア・ミュージック・フロム・カーネギー・ホール』で聴ける。大観衆を前にした会心のパフォーマンスだ。後者では、ギル・エヴァンス・オーケストラと共演した「アランフェス協奏曲」の貴重なライヴ・ヴァージョンも聴ける。活動休止~カムバック後の作品では、81年に行なわれた3種のライヴからなる『ウィ・ウォント・マイルス』がいい。5年間のブランクを吹き飛ばすマイルスのトランペット、そして今や重鎮となったマーカス・ミラーやマイク・スターンの若き日の姿が感銘を与えてくれるはずだ。
 マイルスの最も尊敬するジャズ・ミュージシャンに、デューク・エリントンとルイ・アームストロングがいる。エリントンの作品では、全米を代表するジャズ・フェスティバルでのライヴ盤『エリントン・アット・ニューポート』がノミネートされた。生涯、黄金時代を貫いたかのように見えるエリントンだが、実のところ戦後の数年間は一種の谷間にあった。相変らずの創造力を発揮してはいたものの、ジャズ界の注目はオーケストラではなくコンボ(小編成のバンド)に傾いていた。はっきりいえば「何をいまさらエリントン。ビッグ・バンドなんてもう古いよ」という空気だったのだ。1956年のニューポート・ジャズ祭は彼にとって捲土重来の舞台となった。ここぞとばかりにプレイした「ディミニュエンド・イン・ブルー・アンド・クレッシェンド・イン・ブルー」で多くの観客が大興奮して踊りだし、ついには暴動寸前の騒ぎに。その様子は一般のメディアでも報道された。結果、「そこまでひとを狂乱させるエリントンって、いったい何者なんだ?」と一気に新しいファンがついて、エリントン、そしてビッグ・バンド・ジャズに対する認識は急上昇した。そんないわくつきの演奏が、CDで聴けるのだ。ルイ・アームストロングは、そのエリントンに“ミスター・ジャズ”と呼ばれた人物。“ジャズはアドリブ中心の音楽である”、“ジャズはシンコペーション(≒スイング感)が命”という暗黙の了解は、彼によって確立されたといっていい。ルイ以前にラッパをこんな風に吹き、こんな風に歌を歌った男はどこにもいなかったと断言しても怒られはしないだろう。1920年代半ばの革命的演奏の数々が収められた作品こそ、『ザ・ベスト・オブ・ザ・ホット5・アンド・ホット7・レコーディングス』である。ルイは同時期のあらゆる楽器奏者や歌手に影響や共感を与えた。その結果、こんにちのジャズがあるのだ。昭和初期の録音とは思えないほど音質も鮮明だ。当時からジャズはどのように発展したのか、あるいはしていないのか。ジャズに関心のある方ならば、決して避けて通ることのできない作品集であると断言したい。
 ルイは“ジャズ・アンバサダー”(ジャズ大使)としても親しまれた。世界中をツアーしたり、積極的にテレビや映画に登場して幅広い層にジャズの魅力を伝えたからだ。“ジャズ・メッセンジャーズ”(ジャズの伝道師)というバンドを率いたアート・ブレイキーもまた、この音楽の普及に尽力したひとりだ。ヨーロッパや日本でベスト・セラーを記録した『サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ』3部作が久々にCD化されるのは文句なしの朗報である(アメリカではこの形で発売されたことはない)。ゴスペルやブルースといった黒人音楽の要素を強く取り入れた、いわゆるファンキー・ジャズの代表作品としても知られており、大ヒット曲「モーニン」はこれこそ決定版という声も高い。いっぽう、クラシックに傾倒した音作りで、アメリカの国民的ジャズ・ピアニストとして親しまれたのがデイヴ・ブルーベックだ。ミリオン・セラー曲「テイク・ファイヴ」で一世を風靡した彼だが、今回復刻される『エンジェル・アイズ』、『マイ・フェイヴァリット・シングス』、『エニシング・ゴーズ』等では、そこにとどまらない幅広い持ち味に触れられることを約束したい。
 文字数も残り少なくなってしまった。今回は可能な限り、オリジナル・アルバム未収録曲を加えた形でのリリースをとっている。『ブルックマイヤー&フレンズ』には名歌手トニー・ベネットが客演したパフォーマンスが追加収録され、チャールズ・ミンガスの『メキシコの想い出』はオリジナル・アルバムの3倍以上もの“拡大版”になっている。「アナログ盤でさんざん聴いたよ」というツワモノ・リスナーにも、ぜひ手にとってもらいたい。そしてひとりでも多くの音楽ファンに、ジャズを推し増ししてほしい。そんな気持ちでいっぱいなのだ。

2014年1月 原田和典